田中靖浩の経歴やプロフィールなど
中央クーパース・アンド・ライブランド国際税務事務所などを経て、田中公認会計士事務所を設立、所長となる。
各種経営コンサルティングから、最新の企業事例や経営ニュースを採り入れた会計セミナー、執筆・連載などに活動中。
著書に『右脳でわかる! 会計力トレーニング』『経営がみえる会計』『儲けるための会計』(以上、日本経済新聞出版社)、『数字は見るな!』(日本実業出版社)など多数。
数点は海外でも翻訳出版されている。
大学の頃、まさか自分が会計士になるとは想像もしてなかったなあ(遠い目)。
とにかくまともに就職活動する気にならなかったんだよね。そのころバブル前夜で「みんな揃って大手金融!」って空気だったけど、それがイヤでさ。浮かれた騒ぎを「今がピークに決まってるだろ」と冷ややかに見てた。
さりとて入りたい会社もなく、行く気もないのに就職するくらいなら、一発難しい試験でも受けてやるか、って会計士試験を受けることにした。会計のゼミだったし、なんとなく会計士試験。単純(笑)。
それで勉強しながら無職のままで卒業したんだけど、運良くその年に受かった。
外資系コンサルって今でこそ花形だけど、当時はマイナー。日本の景気は絶好調、逆にアメリカ絶不調って時代だからね。外資なんて変わりものしか行かなかった。
仕事では、英語と税金とコンピューターがどれもできないという三重苦、まるでヘレンケラー状態。そりゃもう、つらいのなんのって。働きすぎで吐血、入院までしたもんなあ。
ベットの上でしみじみ考えたよ、「人生ってなんだろう」ってさ。
そんなかんじだったから、当初の目標通り「独立しよう!」と思って会社を辞めた。もともと会計士を目指したのも一人で生きていける、というような独立のイメージがあったからだし。
そんなわけないだろ(笑)。
顧問になった会社はつぶれるわ、立ち上げたプロジェクトは失敗するわ、仲間とケンカ別れするわ、ありとあらゆる失敗の連続。多くのカネと友人を失った。でも講師とかソフトウェア販売とか、普通ではできない仕事をしてきたことはいい経験だったよね。
結局、独立してからいろんな仕事や経験をしてきたことで「こんなことも出来る」という蓄積はできたけど、それが本当の自信にはつながらない。長きに渡って「こんなに不安定でも生きてこられた」ってのが自信になるんだよね。
考えるのがめんどくさいから。ウソ。でもちょっと本当(笑)。
オレさ、人生の重大な決断ほど、直感が大事な気がするんだよね。人生に「自分に追い風が吹いているな」って気がするときってない? 追い風が吹いていたら、即乗ること。これまでそうしてきた。乗り遅れるとすべて手遅れになるかもしれないから。仕事も結婚も直感が大事。相手のあることだから、自分の思い通りになんかならないし。大事な決断こそ、直感でエイって決めるのが一番だと思うよ。
人生に必要なものって、そこそこ努力したあとは直感とハッタリ。それだけあれば十分。あとはぜんぶ邪魔なだけ(笑)。
うん、最近はきちんと仕事を選ぶことだけには気をつけている。
いろんなものに手を出しすぎると、すべての仕事が中途半端になって人に迷惑掛けるからね。やるべきことをしっかりとやる。やるべきでないことはやらない。これが仕事上のポリシーだね。
仕事を選ぶときには2つのことを考える。
その仕事が「自分にしかできない仕事かどうか」。それから「楽しい仕事かどうか」。
この2つに照らして会計業務からは真っ先に撤退した(笑)。自分にしかできない仕事を選ぶのは、ムダな競争をしなくて済むから。子どもの受験と同じで、競争自体にエネルギーが注がれるのは、無駄だと思うしね。それから楽しくない仕事は絶対に長続きしない。
嬉しいね、そう言われると。「面白かった」って最高の褒め言葉だから。
面白くする秘訣ってのはよくわからないけど、やっぱり「わからないで苦労している人たちの気持ちを知る」ってことかな。すべてをその目線から考える。たぶん講師経験も長いから「わからない人の気持ちがわかる」というのが自分の特徴なのかもね。
受講者が自分の頭に「会計の全体イメージ」を描く手助けをするのが講師の役目だと思っている。それができれば、みんな勝手に「興味」をもつから。「これはどうなっているんだ?」「あの会社はどうなんだ?」ってね。
話を面白く聞いてもらって、興味を持ってもらえばそれで幸せ。もう死んでもいい(笑)。
「自分も本を書きたいんですが、どうすればいいですか?」ってよく訊かれるけど、いつも答えに困るんだよな。
「自分の経験から何が書けるか」とか「読者にとって役に立つ内容が書けるか」などということはある意味、どうでもいいことなんだよね。
「自分がそれを書くのにふさわしい人間かどうか」ってことが一番重要だと思う。ほかの誰でもない、これは自分が書かないといけないんだ!という内容をもっているかどうか、探し続けているかどうかということ。
だからほとんどの本の場合、一行目を書き始める前に80%の仕事が終わっていることが多いかな。売れるかどうかじゃない。自分だけが表現できること、それがあるかどうか。
それって結局、執筆というより、何を考え、どう生きていけばいいんだっていう、人生そのものなんだけどね。