私も長い間、たくさんの場所で講師をやってきたからなのか、よく「話し方を教えてください」と訊かれます。 でも教えるべきノウハウが何もないので、そういうときは「落語を聴くといいよ」とアドバイスしています。
「話が上手な講師には、落語好きが多いですよね」と、あちこちで耳にします。
でも落語を聴けばすぐ話が上手くなるかといえば、そう簡単ではありません。
先日も若い講師候補に「落語でも聴いて勉強しておいで」と指示したところ、「行ってきました。面白かったです!」との感想。
彼に「それだけ?」と訊いたら、ポカンとした顔をしております。
「落語を聴いて、どこが勉強になった?」と訊いても、彼はなにも答えられません。
・・・これではダメです。せっかく落語を聴いても、「面白い」で終わっていては、講師としての上達はおぼつきません。
この学びレベルの低さは致命的。
きっと彼のような若者が登場してきた背景には「すぐわかる」「よくわかる」と具体性・即効性を売りものにしたビジネス書などの影響があるのでしょう。
抽象的なものをいったん具体的なレベルに落とさないと理解ができない。
これは戦後の日本人がアメリカから学んでしまった「最も悪い習慣」です。
その悪い習慣が、儲からない出版社の短期利益志向と相俟って加速している。
そんな愚痴はともかく、悩める後輩たちのリクエストに答えて、「私流・ビジネスに生かす落語の聴きどころ」をまとめることにしました。
私自身、講師を行うにあたって「話し方」「教え方」のレクチャーを受けたことは一度もありません。
ただ数年前に出会った落語からは、かなり多くのものを学ばせてもらいました。
そんな学びのなかから、主としてビジネスマン向けに「落語の聴きどころ」を書くことにします。
講師を目指す人だけでなく、プレゼンテーションや、話し方全般の参考になれば幸いです。
厚顔無恥を承知の文章につき、自分のHPに掲載することにします。
落語会に行って、話し手の落語家さんから学ぶべきもの。
まずはじめに、話し手の『揺らぎ』です。
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先日、東京ビッグサイトで行われた中小企業の展示会に行ってきました。
会場中央のイベントスペースでは、たくさんの社長さんが自分のビジネスの紹介をしています。
いまや全員がパワポを使うのはいいとして、そのパワポの内容もまちまち。
ビジュアルが驚くほどキレイなスライドから、文字を書いただけのスライド。
また流暢に話す社長に聴き取れないほど小声の社長。本当にいろいろでした。
その発表を聞いていて正直な感想として思ったのです。 キレイなパワポを作り流暢に話す社長の発表ほど「まったく信用ができない」という事実に。
プレゼンのうまい本人は、他の下手くそな発表を聞いて、しめしめと自己陶酔に浸っていることでしょう。
でも実はスキのないプレゼンほど「つまらない」うえに、「ウソっぽい」事実に、本人はまったく気が付いていないと思います。
会社の事業を観客に伝えるうえでは、出来損ないのパワポを使って、下手だけど一生懸命話す社長のほうがはるかに成功していました。
下手だけど熱意溢れるプレゼンからは「正直さ」が伝わってきます。
観客として見ていた私にとっても、これは新鮮な発見でした。
「どうして上手なプレゼンはウソっぽいのだろう」
ひとつの仮説に行き着きました。上手なプレゼンから漂ってくるもの−−それは「この人はおそらく、別の場所でも同じことを同じように話しているのだろう」という想像です
うまく話そうとすると、パワポを工夫して、話のストーリーや抑揚に気を付ける。
こうしているうち、自分のなかに「ひとつのパターン」で出来上がってきます。
良く言えば自分の話す「型」の完成、悪く言えば「マンネリ」化。
ビジネスでも講演でも落語家さんでも、マンネリに陥ると面白くありません。
一回はお客さんに喜んでもらえても、「もう一回」のリピーターは来てくれません。
工夫して技術を磨いた「うまいビジネス・プレゼン」には、本人の思いとは裏腹にとんでもなく嘘くさい気配が漂い始めます。
こうしたウソくささを避けるためにも、そしてマンネリを回避する為にも人前で話す人間には「揺らぎ」が必要だと私は思うのです。
<つづく>